財団法人 東京都 防災・建築 まちづくりセンター
ホーム まちの安全・安心 住まいの安全・安心 建物の安全・安心 総合案内
ホーム > まちの安全・安心 > 街並み Vol.29
街並み Vol.29  
まちづくり先進事例 目次

これからの生活みんなで創っていこうよ
 −東京北区・神谷地区での共同建替え“セレス神谷”からのレポート−
三浦 史郎
■プロフィール
現在、(株) 象地域設計取締役企画室長
地域密着型のコープ住宅、賃貸型のコープ住宅、住民参加型の共同建替えのコーディネーターを務める。「住民派のまちづくり・生活派の建築創造」を主唱する「新建築家技術者集団」東京支部幹事
一級建築士
 東京の北端、北区神谷に19戸の集合住宅“セレス神谷”が完成したのはこの3月、入居から半年の感想と暮らしぶりを聞こうと、現在お住まいの6人に集まってもらいました。

 A:70代主婦、元借地人、
 B:60代会社員、元地主、Eの兄、
 C:60代会社役員、元借地人、
 D:50代主婦、元借地人、
 E:60代会社員、元地主、Bの弟、
 F:70代自営、元借地人、


最初に声がかかってから7年半、随分長い時間がかかりましたけど、この事業を通して一番印象に残っていることとか感想を一言ずつ

A:初めてこの話を聞いた時は、建替えをする時期でもなく、風呂とかも直したばかりだったんで、反対の気持ちが大きかったんですよ。
B:たくさんあるけど、つい一月前に妻が倒れたので救急車を呼びました。おかげさまで病院まで運べたんです。新設道路を含めた住環境整備の成果を享受したのは私が第一号ですよ。
C:昔だったら救急車は入れなかった。道路ができたことで、隣のMさんも建替えてきれいになった。周りにも波及効果が出てきてますね。
D:前は近くで火事があった時も、消防車が入ってこれなくてグルーッとホースを回して消火したのよね。私も最初はこんなことが本当にできるなんて思わなかったわ。
E:住んでた建物が40年経って、雨漏りはするし、建て付けも悪くなるし、老朽化が激しくてどうしようかと思ってたけど、どうにも出来ない状態だった。
C:昔、私の家の前は水路だったので、水路が埋められ道路ができる度に敷地が少しずつ削られてった。建替えを考えて役所へ行ったら、建物が建っているところも国有地(水路敷き)だということが解ったんですよ。
B:父が生きている時、公団から道路を通す話があって、父はもちろん断っていたのよ。
F:こうして道路ができ、建物が建ってみると、うまくやるもんだなあと思った。

■ 都市公団による密集事業
 神谷一丁目地区は、昭和61年から住宅・都市整備公団(現・都市基盤整備公団)による「住環境整備モデル事業(現・密集住宅市街地整備促進事業)」で基盤整備が行われてきました。公団の施行は全国で神谷地区の一カ所のみで、密集事業での整備手法はすべてやり尽くしたといえるモデル地区、2001年に日本都市計画学会賞を受けました。この共同建替え区域は密集事業地区内にあり、住宅改善の要求を大切にした共同建替えと道路新設整備を住民と一緒になって検討を進めました。

車と自転車・人がすれ違う狭い道路 路地に面した家々
建替え地区と新たな道路線形

悩みはさまざま有った訳ですが、共同の土地利用、戸建てから共同住宅への踏ん切りはどんな場面でしたか

B:相続が発生していて、細切れにすると更に建て詰まるところだった。阪神大震災を見て、東京の密集地で地震が起こると、やっぱり長田地区のように一面火事になってしまうと思った訳よ。だから公団からの話も理解できたし、何とか共同で土地を利用することに繋がったの。このことを兄弟の相続会議でも話した訳よ。
でも、自分がマンションで生活するのは、公団の高層住宅団地が目の前にあったので、どうも悪いイメージがあったのよ。隣との付き合いも薄そうだし。
D:象さんのやった共同化住宅の見学に行って、マンション形式でも自分たちの生活にあった住まいづくりができる事がわかり、気持ちが変わった。戸建てで建替えても無理な3階建てにしかならないし、もともと住んできた方々が再び暮らせるというのも安心だった。

■ 戸別では改善がむずかしい地域
 建替え前の地区は、細い路地に接道条件の悪い宅地や老朽化した建物が多く、一部には昔の水路敷き(国有地)を不法占拠している状況もあった、そのために借地の更新が滞っていたり、地主に相続が発生するなど木造住宅密集地に共通の課題をたくさん抱えていました。これらの課題は相互に絡み合っているために別々に解決するのは難しく、共同建替え事業の中で一気に解決を図られなければいけません。
 最初は誰しも、そんなことが出来るはずもない、と後込みするのですが、先ず「共同での土地利用検討会」から始めることにしました。

カードを使って建物の希望を出し合う
(検討会)
線内が共同建替えの
位置

そうして実現した共同住宅での生活、初めてのマンション暮らしは如何ですか

B:夫婦二人っきりのマンション暮らしを始めてみて、とにかくものすごく静かという印象。自分から外へ出ていかなきゃノイローゼになってしまうかもしれないほど音が静かなのよ。
A:私の住んでいる2階は、窓を開けてると外の人の声も聞こえますよ。シンボルツリーで植えたヤマボウシが目の前できれいに咲いて、うちが一番いい場所ね。
F:仮住まいに公団のコミュニティ住宅に入れたのは良かった。この事業で3人が一緒に入ったので何かと心強かったし、マンション暮らしの練習にもなったようなもんだ。
B:戸建てに住んでた時、空き巣に入られたことがあったけど、ここは安心大丈夫だね。
A:これまでは何カ所も鍵をかけて出かけたけど、今は1つかければOKですよ。
F:変なセールスが入ってこない。最近電話のセールスがいやに多いけどすぐ断れるんだ。


以前と比べて、つき合いの変化は有りましたか、どんなときに感じますか

D:Aさんとは、以前隣り合わせに並んでたけど、家の出入り方向が違って町会の班も違ったので、あまりつき合いがなかった。
A:一軒家の場合は路地で付き合いが決まってくるよね。
C:セレス神谷になって、歳も近いこともあるけれど、Bさんとずいぶん飲むようになったねぇ。この2年間の協議会での話合いの中でいい関係になったと思うし、安心だよね。
F:緊急の時に、すぐに集まれるのがいいんだよね。
B:セレスの賃貸入居者は新婚さんが多いのかな、子どもがいる家族も少ないし、若い人はあまり爺さんたちとのつき合いを好まないのかもしれないね。
F:こないだの花火バーベキューに呼んだ近所のNさんがすごく喜んでいて、今度は奥さんも連れて来たいと言ってた。ああいうのも新しい付き合いだね。
B:土手の花見と屋上の藤見と花火バーベキューは、年中行事になりそうですな。そういえばこの前の花火の時には、賃貸の人も3家族参加してずいぶん喜んでいたし、参加できないけどってクッキーを焼いて持ってきてくれた若い人もいたのよ。嬉しいねぇ。
(仮の借家住まいではなく、自分も一緒に暮らしているんだという気持ちを持ってもらうことが大事で、それは建物の良好な維持管理にもつながるんですよね)
B:みんなで決めたルールも良く守ってるよね。玄関前に物を置いちゃいけないとか。
C:この前のBさんの奥さんが倒れたことなんかもあるんで、住戸間にお互いに知らせるベルを付けたらいいと思ったんですよ。
D:北区でも高齢者のひとり住まいには緊急システムがあるらしい。
F:うちは歳取っているから必要かもな。昔、浅草寿町に住んでいた時には、醤油貸してくれなんて言って隣と行き来してたもんだけどな。
E:今の時代はさすがにそこまではないか。


地主さんと借地人との協同ということで難しいことは無かったでしょうか、わだかまりや恨み言とか、もう昔ばなしになりましたか

F:Cさん達とは長屋のような付き合いで一緒に苦労してきたから、こうやってみんなで一緒にできたんじゃないか。
以前は横並びの借地人が、今は2〜4階で縦の長屋に変化した。Bさん・Eさんも住戸位置でかち合ったけど、上が兄・下が弟で収まって、これがうまくいったよな。
B:平成3年に父が亡くなったが、相続の結論がなかなか出せなかった。宅地を切り売りしたら更に小さくなってしまうし、困っていた。
C:私は先代とは借地の関係でうまくいっていなかった。Eさんに間に入ってもらい、ずいぶん助かりましたねぇ。
E:父は古い地主タイプで、頑固な面があって、借地の方には迷惑かけたと思う。死を予感してたのか、Cさんと和解した1週間後くらいに、安心してあの世に行ったことになる。
D:もしかしたら、私たちも先代も被害者ということじゃないかしら。私たちは国有地と知らずに、借地権付き住宅を不動産屋の仲介で買った。当時は先代も気が付かなかった、水道も出なかったし、ひどい業者だったからね。
F:私は借地権が切れて、更新して欲しいと無理を言ったよな。Bさんの家族は一人一人バラバラだと考えが違うのに、兄弟が揃うとピシッとまとまる。良くバランス取れてると感じたね。
B:10人兄弟の中に欲張りがいなかった。それが成功の鍵だったのじゃないかしら。
F:昔のことを言ったらきりがない。悪いこともあったよ。でも、これからのことをみんなで創っていこうよ。仲良くいこうよ。

■ 地主と借地権者の協調
 平成10年12月、公団の呼びかけという形で「共同の土地利用を検討する会」がスタートしました。検討会では共同建替えについての仕組みや他事例を勉強しました。公団により新設の道路線形が検討される中で、戸建てで残りたい希望があって、それを実現出来る客観的条件もある人は敷地を入れ替えたり整えたりして、共同化敷地を生み出しました。共同化に参加する人は「共同建替え協定」を結び協議会をつくって、自主施行で事業に進みました。協議会は完成までの間に月1回の会合を欠かさず行い、地主と借地人という関係を越え、それぞれの個別目標を実現する方策としての協同事業へ、全員で検討・討議し、決定しました。

建物竣工後の管理について学習(協議会)

共同住宅への心配として「管理費が高い」ということを皆さんがおっしゃってました。今回は自主管理を行うことで110円/m2・月と、勉強した半分位で相当安く出来た訳ですが、実際に管理が始まって自主管理はしんどくないですか

C:管理費は、非常によく計算されて予算が立てられています。さすがですね、この分だと少し残りますよ。
B:私は理事長をやってるけど、長く続けると、不正が出てくる可能性もある(笑)ので、定期的に変わるようにしたいですね。
A:管理はみなさんに、おんぶにだっこ状態で申し訳ないですね。
C:いいんですよ、できるうちはね。
B:掃除は委託しているけど、今のところ良くやってくれているよね。
C:植栽への水やりはBさんやGさんがやってくれるし、私は気づいた時に資源ゴミ出しをやってる。できる人ができることをやればいいと思います。いずれは、Aさんの息子さんに引き継ぎますので、よろしくお願いします。
E:こないだの朝、新聞取りに1階へ下りたら、シンボルツリーに登ってる中学生がいた。たばこ吸った後もあったり。公開空地だから入るなとも言えないしなぁ。
B:この庭は公開空地といっても管理は自分達でやらなきゃいけないから、知ってる子なら 注意するとか、知らない子だったら交番に連絡する方がいいんだ。


ペットについてもしっかりルールをつくって安心して飼えるようにしたわけですが、どんな状況ですか

E:以前飼ってた犬は、仮住まいの1年間預けてた方になついたので、あげることにしました。今は亀を飼ってますが、この前水槽の掃除のため一時出していたらバルコニーを歩いて隣のCさんの家に遊びに行ってしまったの。
C:たまたま家に孫が来ていて、その亀を見て、亀を飼いたいと言い出して飼うことにしました。その孫もけっこうドタバタはしゃぐので、下の階のFさんに迷惑かけてませんか。
F:いや、そんなことないよ。まったく気になんないよ。


屋上は富士山が見えるのが自慢だけど、屋上広場はどんな活用をしてますか

B:藤棚にする予定が、今年は暫定的に瓢箪とヘチマを植えてます、ヘチマは4つ生った。
C:孫が来て、ヘチマを一つ折ってしまった。セロテープでくっつけたけど、やっぱりダメでした(笑)
スミマセン。
B:子どもの勉強になって良かったんじゃないの。
C:先日の花火バーベキューで、生ビールサーバーを買ったけど、当日失敗するといけないからって前夜祭で7リットル空けちゃって、当日は40リットル飲みましたね。
F:息子が来て、いろいろ焼いてたね。地元町会のお祭りでやってるみたいで、ずいぶん手慣れてた。いろんな人がいろんな役割を果たすというのが、いいんだよね。


住まいの改善が目標だったわけですが、それぞれの住宅の住み心地どうですか

C:来客が皆びっくりする「これがマンションなの?」って、私のところは、設計者と息がピタッと合い、満足のいく家づくりができました。唯一、食卓上の照明器具をケチって失敗したくらいで、自由設計はすばらしいですね。
A:細かいところまで気を配った設計で、本当に思った以上の出来になりましたね。
F:下の道路で知らない人から「賃貸は空いていますか、空いてたら入居したい」って聞かれたよ。工事中から見てて気に入ってたらしい。

■ 暮らしに合わせた自由な設計
  19戸の住宅のうち、7戸は自己用住宅として設計されました。それぞれの生活に合わせ、面積や間取り仕上げなど、どの住宅も自由設計が行われた結果、個性的で使い勝手の良い住宅となりました。外壁はみんなで決めたタイルとコンクリート打放しで、地域に調和した外観になっています。個別設計打合せも今となっては想い出、夜中まで掛かったこともありました。

建替え後の配置図・屋上パーゴラ配置図・東側立面図

■ 共同建替えの歩み
1994〜 公団による住環境改善の働きかけ
1998.12 「共同の土地利用の検討会」設立
1999.4 道路線形の発表
1999.5 共同建替え区域の確定
1999.11 「共同建替え協議会」設立
2000.5 事業を自主施行方式と決定
2000.6 住戸位置の決定
2000.8 「都心共同住宅供給事業」認可
2001.2 仮住居へ引越し
2001.3 本工事契約、着工
2001.4 道路工事完成、共用開始
2001.11 上棟、建物内覧会
2001.12 賃貸住宅入居者の募集開始
2002.3 竣工、入居開始
■ 計画の概要
権利者 9名 元土地共有者5名+元借地権者4名
施行者 神谷一丁目地区建設協議会
敷地面積 747.64m2
建物規模 鉄筋コンクリート造、地下1階地上5階
  延床面積 1,638.43m2
  住宅専有面積 1,225.58m2
  容積率 174.3%
用  途 住宅19戸(うち自己用7戸)、駐車場4台
コーディネート 株式会社 象地域設計
設計監理 株式会社 象地域設計
施工者 本不二建設 株式会社
適用制度 密集住宅市街地整備促進事業(都市公団)
  都心共同住宅供給事業(北区)
  ファミリー賃貸住宅融資(公庫)
  個人共同住宅融資(公庫)

目次へ
前のページ  次のページ






WWW検索 サイト内検索
【問い合わせ先】
財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター
〒150-8503
 東京都渋谷区渋谷1−15−9 美竹ビル
TEL 03(5466)2103 (まちづくり推進課)
ホーム / まちの安全・安心 / 住まいの安全・安心 / 建物の安全・安心
Copyright (C) 財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター All rights reserved